同族株主の範囲の注意点(実質支配関係)
事業承継対策として株主を分散して株価評価を引下げる手法は昔の株価対策として流行りましたが、株式の分散は相続段階では良いですが、その後の後継者の代において経営支配権の把握の問題が発生するため、長期的な経営の視点からはお勧めできません。
極限まで分散させることにより株式の相続評価を引下げようとした事例を見ながら、同族関係者の範囲について注意すべき点を見ていきたいと思います。
筆頭株主グループの議決権割合が30%を超えると、その株主グループは同族株主になりますが、上記のケースは30%を超える株主グループを作らないようにして、同族株主がいない状態にしています。更に、創業家一族は持株割合の合計が15%以上のグループにならないように持株比率を調整し、特例的評価(配当還元方式)を適用できるようにして相続評価を行いました。
数字だけ見れば持株比率を完全にコントロールし同族株主外しができているように見えますが、X社は設立目的、出資者、組織、活動等の点から創業家の強い支配下にあり、X社の出資者は意思決定を創業家一族の意志に委ねられていたものと認められ、創業家一族の意志と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者とみなされました。この結果、X社は創業家一族のグループになったため、創業家一族の持株比率は22.8%となり、原則的評価によるべきとして更正処分を受けました。
*その後の東京地裁判決(平成29年8月30日)では、財産評価基本通達188の適用上、Z社における株主の議決権割合の判定そのものに法人税法施行令第4条6項が適用されるわけではないから、仮にY社及びX社がその有するZ社の議決権についてZ社や原告の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していたとしても、Z社の株主の議決権割合の判定において、Y社及びX社の有する議決権をZ社や原告が有するとみなされることになるものではないとして、配当還元方式による評価が認められました。
【参考条文】
法人税施行令4条(同族関係者の範囲)6項
個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人又は法人が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除く。) は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして、第3項及び前項の規定を適用する。
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